私が「経験産業」(Experience Industry)という言葉を知ったのは、今から15年程前でした。

そのころ私が勤務していた外資系の研究機関が「経験産業」という新しい概念を創りあげたのです。

今では『経験経済』という本も出版されていて、「経験産業」という概念は一般に知られるようになりましたが、その当時はごく限られた人だけの間で話題にされていたものです。

経験産業」とは、一言でいうと、「経験」を売る産業です。

今ある代表的な例としては、ディズニーランドを挙げることができます。

そこへの訪問者は、単なる遊園地の乗り物に乗ること以上に、そこで展開される物語の世界に入り込む経験を楽しむということですね。

それでは、なぜ「経験産業」なのかといえば、それは経済価値というものの本質にあるからです。

つまり、コモディティ(農業・鉱業などの産物)から製品、サービス、そして経験へと進化するのが経済価値の本質だからです。

下の表にあるように、それぞれの経済価値は本質的な違いがあり、経済価値のレベルが上がると、その価値が大きくなります。

そして、その価値の大きくなる方向に、経済社会(産業)がシフトしていくという考えです。


          < 経済システムの進化 >

  経済価値     製品     サービス      経験

  経済的機能    製造     提供        演出

  売り物の性質   形がある   形がない      思い出に残る

  重要な特性    規格     カスタマイズ    個人的

  供給方法     在庫     オンデマンド    一定期間見せる

  売り手      メーカー   サービス事業者   ステージャー

  買い手      ユーザー   クライアント    ゲスト

  需要の源     特徴     便益        感動

   (注):『【新訳】経験経済』(ダイヤモンド社)から抜粋


この「経済システムの進化」を眺めていると、心理学者のアブラハム・マズローの「欲求の五段階説」が頭に浮かびます。


          < 欲求の五段階説 >

          第五段階:自己実現の欲求
              ↑
          第四段階:尊敬の欲求
              ↑
          第三段階:帰属の欲求
              ↑
          第二段階:安全の欲求
              ↑
          第一段階:生存の欲求


人間は、低位の段階の欲求が満たされると、次の上位の欲求を満たそうとし、最終段階の欲求は「自己実現」の欲求になるであろう、という説です。

私の場合は、全ての欲求がごちゃ混ぜになっていて、段階を踏んで順序よくとはとても言えませんが、このマズローの説は大方の傾向として当たっていると思います。

人々は、生活必需品をすでに所有し、物質的欲求が満たされると、モノの所有よりも、嗜好・娯楽、知的向上、そして豊かな経験を求めるようになります。

「経験産業」は、このような人々の欲求を満たす産業であり、その満たすべき究極の欲求が「自己実現」とも言える産業でしょう。

私は「情報起業」(情報ビジネス)の進化したものとして、「経験起業」(経験ビジネス)というものを提唱(デッチあげ?)しました。

それは、経験産業のなかで、情報ビジネスが上述した「自己実現」という欲求を満たす可能性が最も高いのではなかろうかと思ったからです。

長くなりましたので、このテーマはまた次の機会にお話しましょう。